以前、知人に連れられて行った割烹料理店
知人はここの常連で、いかにも職人気質な料理人と見られる大将と親しい間柄で、会話が盛り上がりました。
大将は現在40代半ばで、これまでいくつかの料亭や割烹料理店で修行を積んで、板前としての包丁技術を極め、数年前に念願の自分の店を構えることができたと語ってくれました。
いただいた料理は、和食だけではなく大将自ら考案した和食とイタリアンが合わさった創作料理などもあり、どれをいただいても美味しくて、大将の食に対して強いこだわりを感じることができました。
料金の方はと言いますと、食材や調理にこだわっているのにも関わらずリーズナブル価格で、私のような庶民も安心して伺える料金です。
これも大将のこだわりの一つで、割烹料理であっても敷居を低くした、 言わば大衆的な酒場を目指していると語ってくれました。
こんな店が近くにあれば、「きっと私も常連になるだろうな」と思います。
ですが週末の20時台なのに私たち以外は2組の客しか入っておらず、 店内には空席が目立っています。
立地も幹線道路からは少し入った通りではありますが、ここは福岡市内の副都心的な場所で近年大きな再開発が行われて、今では福岡では活気がある賑やかなエリアです。
集客できない理由なにか?
さすがに「大将、このお店は集客が全然できてませんね」と尋ねることはできません・・・ しかし何気に交わしている会話の中に、その原因のひとつを見つけることができました。
ここのすぐ近くに海鮮丼の店が最近できて、ランチの時間とか行列ができるほど人が多い。
「その海鮮丼がどれほどものか」って確認してやろうと思い、この前こっそり食べに行ったら、どれもこれも刺身の切り方が適当で、ど素人の仕事で驚いたよ。
食事をしたいと思う人が「調理技術」を基準にして店を選ぶことは絶対にありません。
大将は『海鮮丼店の集客できている理由』を見に行かなければならなかったはずなのに職人目線での粗探しをしているのです。
職人気質のようなプライドを持って仕事をすることは大変素晴らしいことでありますし、店舗経営にとっては必要なことです。
しかし「うちの店は違う」というのは、まるで親バカな教育熱心な母親が「うちの子は違いますから」と言っているのと同じことで、他者から見れば選択基準はそこでは無いのです。
集客ができなければ商売を続けていくことはできない
この料理職人が美味い料理をリーズナブルな価格で提供する店は、それから1年半後に閉店してしまいました。
いいものは必ず売れることはありません。存在を知らせなければ「いいもの」など無いのも同然です。 そして持続的な集客で常連(リピーター)を増やすことができなければ商売を続けることはできません。