テレワークの急速な普及によってシャツとスーツの需要が激減しているらしい。先日知り合いのオーダースーツを仕立てるテーラーに行った時にその話になった。
コロナが終息したとしても企業のテレワーク化はますます進むだろうね。という話の展開だったのだけども、企業にとってテレワーク化はコスト削減に繋がる要因なので取り入れない訳が無いのだろう。
実際に撮影仲間のAさんは上場企業にお勤めなんだが、コロナ後はほとんどテレワークで自宅勤務をしている。会社はテレワークで業務ができることを確信したようで各地の一等地にある自社オフィスビルを数年後に手放してしまう発表があったそうだ。
この先テレワークメインでやれば、必要になった時だけ集まれるミーティングルームを付近に用意すればよいのだから、オフィスという最大の固定費が削減できる企業側にとって大きなメリットだ。
当然、コロナ中にAさんはほぼほぼスーツを着ていないしスーツの新調もしていない。こんな人が日本中いや世界中に大勢居るのだろうと考えるとアパレル業界の末が恐ろしい。
これからは仕事着としてのスーツではなくファッションとして限られた人だけが着用するスーツになって行くのではないだろうか。
マイルス・デイヴィスがジャズシーンに登場した1940年代はビー・バップの全盛期で、ジャズをやる人間はみんなケバいスーツを着てぎんぎらな演奏をしていた。でもマイルスはそんな連中に混じってただ1人「ヒップ」なブルックス・ブラザーズを着て、クールな音でトランペットを吹いていた。周りの連中はそんな彼をいささか煙たがっていたのだが、やがてバップが廃れて、そのかわりにクール・ジャズの時代がやってきて隆盛になってくると、マイルスの方が演奏においても服装においても、断然主流になってしまった。(村上春樹「やがて哀しき外国語」より)
単純な仕事着としてのスーツから、限られた人だけが着用する(着用したくなる)ファッションとしたスーツの時代へと入っていくことは、これからさらに我々にとって面白い時代になるだろう。と語るテーラー職人に思わずクールだなと感心してしまった。